中進国の罠(わな)

Rebright Partners Pte Ltd.

最近は海外で過ごす事が多い事もあり、日本のテレビはリアルタイムで全く見なくなった。
定期録画予約している報道系の番組をたまに眺める程度なのだが、そのなかでBS朝日で榊原英資氏と竹中平蔵氏が出演した「激論クロスフィア」が面白かった。
まさに「我が意を得たり」、日頃から活動していて感じている事を論じていた。
その中でも「中進国の罠」という議論が良かったので、自分でも少し掘り下げてみた。

人口が多いとある程度の所得水準まで行く、つまり中進国まではいく。そこまでは疑念はあまりない。
問題は、しかしそこから更に先進国にへといけるのか。
中進国の罠、という議論もある。

経済学者は、罠(Trap)という言葉が好きだ。マネーサプライをやり過ぎると市場が反応しなくなる「流動性の罠」などが有名だがこの場合、「豊富な労働力で中進国まで上った国が、そこから抜けれなくなり、いつまでも先進国になれない」といった事を指す。

中進国とは、字面の通り後進国と先進国の中間の事である。
世界銀行の定義などもあるようだが乱暴にいえば、「G20には加盟できているが、OECDには未だ加盟出来ていない国」くらいの解釈で良いだろう。
中国、インド、インドネシア、ブラジルなどであり、まさに人口の多い国が多い。
中進国の罠の議論で哀れにも代表選手のようにいつも言われるのはブラジルや南アである。
逆に中進国の罠にはまらず先進国に飛躍した有名な例は韓国であり、たかだかこの10年ちょっとであっという間に駆け上がった。
両者の違いは何か?
それは「軽工業から高付付加価値産業へ」の産業構造の転換に成功したか否か、にあるとされる。
低賃金がものを言う製造業、軽工業にしがみついた結果、後進の中進国であるベトナムなどにやられてしまった、というのが罠にはまった国々である。
それに対して韓国は、電子機械など高付加価値産業へのシフトに成功した。
私も海外のホテル暮らしが多いが、テレビは大体がサムソンやLGなど韓国製だ。日本製にはまずお目にかかることは無い。
これが巷間言われる「日本危機論」の具体的な事象だろう。
つまり日本は米Appleのように「未来を創造する」製品や産業を創らないと「後進先進国」にやられるという事だ。
ブラジルがベトナムにやられたように。
さてそれでは今後どのような国が中進国の罠を逃れて先進国化するのか?
代表選手は中国だろう。
家電のハイアールや携帯電話のHTC、また米国上場するIT企業もたくさんある。
高付加価値産業が発展し、先進国化するとみなされる代表格である。
その次に来るのが、インド、インドネシア、ロシアなどであろう。
インドやロシアは従来、数学・科学におけるハイレベルな人材輩出で有名である。
またインドネシアは人口第4位という大きさに着目されがちであるが、財閥系スーパーリッチ経済は既にある程度高度化されていて、それが既に中間層にまで波及している。全体にまで行き渡るのも時間の問題とみて良いのではないか。
最後に、本題と関係ないが、これも竹中・榊原会談で同感した議論が「英語」。

日本人は、アジアの中で一番英語が下手だ。
最近、中国は怠けていると言われるが、例えば清華大学などでは授業の2割は英語。
10年前まで韓国は英語が下手だったが教育改革で変わった。
日本の学校で教えている英語は、「和訳英語」である、つまり
日本語を一回頭で考えてから英語に変換している。この方法ではいつまでたっても英語はうまくならない。

アジアで日本が一番英語が下手、というのは残念ながらほぼ事実に近いと実感する。
私が月の半分を過ごす東南アジアでも、シンガポールとフィリピンでは英語は公用語だし、それ以外でもインドネシアやベトナムの若者は日本の若者より上手に、少なくとも一生けん命話す。
ビジネスにおいては、英語が出来ない事は、弱点ではない。失格なのである。リングに上れないのである。海外で仕事をしたことがある人なら誰でも知っている真実である。

若い人たちは、「教育改革」などナイーブな議論に付き合っている時間は無い。
自ら若いうちからどんどん海外に出ていくべきである。 本気で探せばいくらでもチャンスはある。