いつも愛読している広瀬さんのMarket Hackに興味深い投稿があった。

TwitterもFacebookを見習ってクソな自己流をIPOプロセスに持ち込んでいる

私のその興味に拍車をかけたのが、ご存じスタートアップ界のご意見番(w)、国光さんのこの投稿に対する意見表明だ。

個人的には、両者のご意見両方ともに、痛いほど良くわかる。

私自身、VC投資業のキャリアと同時に起業家としてのキャリアも同じくらいあり、

また未上場はもとより、上場会社の経営経験もある。

それゆえに、ご両者の言う事がいちいち身に染みて良くわかるのだと思う。

まず、広瀬さんの議論を勝手に要約させてもらうと、

  • Twitterは上場にむけて、S-1(日本で言うところの上場目論見書、「一の部」)を取引所当局に申請した。
  • ところがそのS-1 が一般に公開されていない
  • そんなイレギュラーな事がなぜ起こるのかというと、米国で新たに施行された規制緩和のための、シークレット・ファイリング (書類申請と同時にそれが開示され、誰にでも読めるようになる現在のルールを適用せず、非公開扱いにすることを許す)というルールを活用したため。

ここまではまだしも、今回広瀬さんが問題視しているポイントはもっぱら以下のよう。

でも許せないのは、新ルール下では、そのデメリットとしてマーケティングまでの準備期間が短くなるという事があるわけで、ツイッターは今回、それを補うため、自らシークレット・ファイリングを利用していることを「つぶやき」して、前人気をHypeしているということです。本来、自分は秘密にすることを選んだのに……これって、自己矛盾じゃないケ?

つまり、例外措置を活用して一般株主に情報提供はしていないのに、「上場するよ」という情報だけはリークして世間を煽るのはどうか、という事。

この論点もさることながら、私は氏が最後の一行に付したこのコメントに注目した。

これって、何かずるいと思うのは、たぶん僕だけだろうな。

このセリフはとてもニクイ。 ニクイというのは、つまり、ここには説明されていない資本市場のプロフェッショナルにしかわからない背景がある、という事を含蓄している。

つまりこういう事だ。

資本市場には何年にもわたって培ってきたベストプラクティスがある。

経験則上、それにのっとらず、変わったことをやると、その後痛い目に合う、特に一般投資家に迷惑をかける事をしでかす若い会社が往々にしてある、それをプロとして何度も見てきた、

そういうニュアンスが込められているように感じた。

事実、上場会社のプロシージャというのは、ものすごく大変なものだ。上場するときだけではなく、むしろ上場してからの四半期決算だったり、重要事項の適時開示だったり、株をちょっと動かすのにも「無知ゆえにルールに反しちゃいました」では許されないコンプライアンスだったり、内部統制だったり、はっきり言って「こんなことなら上場しなきゃよかった」と愚痴りたくなる事もあるくらい、大変な運用である。

慣れないうちは「は?なんでこんな事しなくちゃならないの?」と言いたくなるルールも山ほどある。それをいちいち主幹事証券や監査法人などのプロフェッショナルに指導を受けたり、辛口アナリストから厳しい評価を食らったり、ときには株価が下がって「老後の貯えをあんたのせいで全部なくしちまった、責任取れ!」と一般投資家の方から電話でどなられたり…. そんな試練に耐えながら、上場会社として管理運用体制を向上させていく。

恐らく、広瀬氏の最後のコメントには、そのような背景を知り尽くしたプロとして、「デビューの時から一般株主をナメた(と受け止められかねない)姿勢で挑もうとする会社は、往々にして上場後のプロシージャーでミスを犯して一般に株主に迷惑をかけるから、投資には用心しないといけない」 という思いが込められているのではなかろうか? そう感じたのはそれこそ 「たぶん僕だけだろうな」 といった心持だが。

事実、氏も例に挙げられているFacebookは上場申請後に2回も業績下方修正しているし、同社の資本政策の大失敗とそれによる上場後の株価暴落による一般株主への背任と言いたくなるほどの大失態は私も過去にブログにまとめている

一方で、

国光さんのいう事も、これまた経営者であった時分に、私も往々にして持っていた感覚に近いものがあり、共感するところがあった。

勝手に、乱暴に、その感覚を要約させてもらうと

「所与の条件の中で血のにじむ努力で競争に晒され高みを目指している企業側としては、ルールの下で会社に最も有利な戦略を取るべきだし、それが長期的には一般株主を含めた全ステイクホルダーの利益にもなるはずだ」

これはこれで、全く正論だと思う。

では、何が両者の立場に違いを生じさせているか?

それはおそらく「ルール」という、実は正体が分かりづらい、クセモノなのではなかろうか。

明文化されたルールは、それを守っている限りは殆どの場合問題にならない。しかし今回のように、そのルールを制定した目的とは違う使われ方や、想定とは違う人による使われ方がされる場合もある。

有名な例では、ライブドアがTost-netという仕組みを使って市場取引時間外に奇襲攻撃でしかけたニッポン放送の敵対的M&Aがある。

それは極端な例で今回のTwitterの件と並べて取り上げるにはいささか不適切なのだろうが、つまりはルールには一般的な運用から適法ギリギリの範囲まで、それを活用する人の意図や目的に幅がある、という事だ。

既述の通り、上場および上場後に定められている様々なルールは、長いあいだをかけて資本市場が培ってきたベストプラクティスである。もちろん、時には時代に合わせてアジャストが必要な事もあるが、基本的には上場する側がそれに則る事で、一般投資家は安心して身銭をきって会社を応援する事ができる。

さは言いながらも、桁違いの偉業を成し遂げる風雲児は、時として大胆不敵な言動を取る。それにより社会から非難を受ける事もある。でも大胆不敵であるがゆえに大勝ちして社会にインパクトのある偉業やイノベーションを実現したりする場合もある。

個人的には、今回のこの議論には、今後Twitter側に社会通念的な明らかな瑕疵などが新たに見つからない限りは、正解も結論も、無いように思う。

今回のTwitterの行為、つまり巨大サイトで社会の注目が大きなメガスタートアップが、比較的小規模なIPOを念頭に置いたできたであろう例外措置を活用して、一般株主への情報提供を制限したことが、今後一般株主や社会に受け入れられるかどうかは、今後の会社の成長による株主還元と適正な企業運営によって、ある程度の時間をかけてしか、判断されないのではなかろうか。