今世紀における人類最大の産業は情報通信産業であり、最大の経済地域はアジアである。 そのアジアのテック経済にいま世界中のマネーが結集しており、そしてそのマネードリブンでもってアジアはいま、ひとつの巨大な経済圏を形成しつつある

その「アジア・テック大共栄圏」で実際にいま何が起きているのだろうか?

アジア・テック経済のモメンタムは今、明確に変わった。

アジアのテック産業の潮目は2010年頃から大きく変わったと筆者はみている。

2010年に始まるディケイド(10年間)は、後に世界の産業史上で重要視されるのではないかと思う。

それは第一に、それまで世界2大国であったアメリカと日本が世界3位であり世界で最も成長している国、つまり中国に対して投資を続けていたところ、日本が2010年頃からそのレースから降り、代わりに日本は東南アジアへの大進出ラッシュを始めた事である。理由は中国の成長鈍化や地政学的な両国関係など重層的にあるが、ここではあえて論じない。

ここで重要な事実は、日本はその時期から中国に替えて東南アジアに対する猛烈な投資を開始し、2013年にはとうとう東南アジアに対する日本の投資残高が中国向けのそれを超えたという点、またそのマネーによって東南アジアのテック経済が萌芽したという点である。

第二に、米国がそれまでの中国投資は引き続き積極的に行いつつも、2010年頃からインドへの投資を(特に米大手投資会社が)活発化し始めた事である。これは詳しく後述する。

第三に、中国テック・メガ企業の台頭である。

今となっては古い話に聞こえるが中国テック企業の米国IPOブームが起こったのも本ディケイド、2010年暮れから2011年にかけてである。 「中国版Facebook」と言われたRenren、「中国版Youtube」のYouku 、「中国版Akamai」のチャイナキャッシュ など中国テック企業が軒並みこの時期に集中して米国NASDAQに上場している。

以上が本ディケイドの前半、2010年から昨年にかけてアジア・テック経済圏で起きた現象であるが、以下では更に本ディケイドの折り返し地点である昨年、2014年の一年間でアジア・テック経済圏で何が起こったかを詳しく見てみよう。

アリババ旋風

目下人類最大の産業であるITで、今世紀最大の経済圏となる中国において、最高峰の座に君臨するアリババが、ニューヨーク証券取引所に上場したのが、昨年2014年である。 時価総額は20兆円を超え世界最大レベルの企業群に仲間入りした。

アリババはそれを前後して、国内のみならず米国を含めた中国国外への投資を積極的に開始するのである。

東南アジアへの進出

同社の東南アジアへの本格的進出の狼煙を上げた象徴的な出来事がシンガポールの物流大手シングポストへの出資による資本業務提携である。その後着々と東南アジアにおけるEC・物流網の構築を進め、その後同社はインドネシアへの進出を発表している。

インドへの進出

昨年暮れには、同社はインドへの進出も果たした。インドのモバイル決済の大手であるPaytm社の株式25%を取得したのである。

米国進出

Uberの競合のLyftや、ゲームパブリッシャ大手一角のKabamなど、米国テック企業への大型投資も着々と進めている。

中国は「投資の目的地」から卒業し、自ら「世界の投資家」となった。

アリババだけではない。 中国ITメガの双璧であるテンセントも米国でSnapchatやFab、韓国カカオトークなどに出資をしている。

同じく中国のIT大手一角、検索エンジンのバイドゥは、世界の未上場テック企業最高峰である米Uberに700億円強を出資し資本業務提携を行った。

このように、昨年を境に中国のIT系大手企業は、中国国内の投資・買収はもとより、米国やアジア主要国にどんどん投資を始めている。

つまりは、中国は世界にとっての「投資の目的地」から、「世界の投資家」として振る舞う強力なプレイヤーと昇格したのである。それが具体的に大規模に起こり始めたのが昨年2014年という年であった。

ところでこの中国IT御三家の企業価値はそれぞれ、アリババ20兆円、テンセント10兆円、バイドゥ8兆円である。日本のネット系最大手の楽天、ヤフージャパンの2兆円台の3ないし10倍の規模である。

インドの驚異的な躍進

IMFやアジア開発銀行は、インドのGDP成長率が今年中国を抜くと発表した。つまり、今年から「世界で最も成長する地域」の座は、中国からインドに明け渡されたのである。

マクロ経済もそうだが、IT産業におけるインドの猛進ぶりは、もはや日本企業も看過できない段階に来ている。

例えば、インドのネット関連企業を代表するEコマース最大手のFlipkart、その流通総額は昨年2014年で2B(ビリオン)USドル、本年は8Bドルを見込んでいる。

日本の楽天の流通総額は昨年で2兆円、つまり17Bドルだ。という事はインドの最大手ECの流通総額が日本のそれの半分近くまで既に来ている事となる。

かつ年率3-4倍と凄まじい成長率であるからして、逆転するのも時間の問題と見るのが妥当だろう。

当然、それを見越して世界中から投資家が先を争わんばかりに同社に殺到している。

同社が昨年行った直近の資金調達ではシンガポールの政府系ファンドのテマセクがリードするラウンドで実に1Bドルを調達した。評価額ではない、調達額が1B、1千億円強である。

評価額は実に10B(一兆円超)、ウォールストリートジャーナルによるとこれは未上場の企業評価額として世界第5位である。

Flipkartだけではない。

インドはアジアにおいて中国・日本以外で米アマゾンが進出している唯一の国である。そのアマゾンは上記のFlipkartが1B調達を発表した直後に、ジェフベゾスが現地に飛んで、わざわざ倍の金額の2Bをインドに投じると発表して、大きな小切手の模型を大衆の面前で現地社長に手渡すパフォーマンスまでやってのけたのである。

またFlipkart、印アマゾンを追撃するSnapdealが、日本のソフトバンクから600億円超という多額の投資を受けたのも昨年暮れである。ソフトバンクは他にも同時期に複数の大規模投資をインドに対して行っており、「向こう数年でインドのテック企業に1兆円の投資を行う」と宣言して印モディ首相とシェイクハンドしている

Eコマースだけでなく、レストランレビューのZomatoやアドテクのInmobiやKomli、米ナスダックに上場するMakeMyTripなど既にグローバルに存在感の大きな企業もインドは複数輩出している。

東南アジアのインターネット産業は本格拡大期

既述の通り、中国の対国外投資・進出は昨年より劇的に活発化している。彼らのすぐ隣にあるエマージング市場であるところの東南アジアは彼らの進出対象として注力リージョンとなっている。

また当該地域において、米国・欧州の大手投資家が大規模投資を始めたのもまた、昨年2014年である。以下に具体的に見てみよう。

ドイツのインターネット総合企業、ロケットインターネットが上場を果たしたのも昨年、2014年であるが、彼らが24%出資して東南アジアでEコマースサイトを複数展開するLazadaは、昨年暮れにシンガポールの政府系ファンドのテマセク等から実に250ミリオンドルもの大規模投資を受け、企業評価額は1.25Bドルとなった。

一方彼らの競合、インドネシアのEコマース大手のトコペディアには米国老舗トップのベンチャーキャピタル、セコイア・キャピタルが日本のソフトバンクと共同で100ミリオンドルを投資している。

またソフトバンクはほぼ同時期、東南アジアのタクシー予約アプリ最大手、グラブタクシーにも250ミリオンドルの大型出資を実行した。

そのほかにも10ミリオン規模を超える資金調達が、シンガポールの日用品EコマースRedmart、アドテクのPocketMath、タイのEコマース支援会社aCommerce、そしてインドネシアのEコマースBukalapakなど、複数輩出している。

これらは全て昨年、2014に起きた。それ以前にはこのような規模の資金調達は東南アジアのテック産業において起きていない。ここから、東南アジアのインターネット市場は昨年2014年に本格的なエクスパンジョン期に入ったと言ってよいであろう。

以上が本ディケイドにはじまった「アジア・テック大共栄圏」の実態である。まとめると以下の通りだ。

  • 中国は投資の目的地から世界の投資家へと昇格し、東南アジアやインドをはじめとした国外投資を活発化している。
  • インドは次の大国として、米・中・シンガポールをはじめ世界中のマネーを吸引している。
  • 東南アジアのテック産業は本格的拡大期に入った。日・中の当該地域への拡大意欲も引き続き大きい。
  • 米国は引き続き「世界の投資家」として、中国に加えてインドや東南アジアに本格投資を開始している。
  • 日本は、東南アジアにおいて存在感が引き続き大きいが、それ以外のアジアでは影が薄い。

以上に記したアジア・テック経済圏のモメンタムを俯瞰して見据えた時、これからの数年で起こる事は少なからず見通せるのではなかろうか。