東南アジアにインターネットブームが来る3つの理由

東南アジア経済の隆盛はもはや広く知られてところではあるが、
「東南アジアにインターネットブームがやってくる」というと、ピンとこない方も多いのではないか。
以下では、この地域のインターネット産業が近い将来勃興すると筆者が考えるにいたる、3つのポイントを論じたい。

1 ASEANブーム

まず第一に、マクロ的、地政学的な要因についてである。

インターネット産業の勃興には、やはり経済全体が発展することが基本要件であり、それによりはじめて通信インフラが高度化したり、人々の可処分所得が増加してEコマースやスマートフォンにおカネを費やすようになる。

さて、この地域のマクロ経済を語るうえで第一に重要な点は、2015年のASEAN統合である。
この点は日本では語られることが少ないようであるが、AEC(Asean Economic Committee)といって、EUのような経済共同体がこの地域に出現するのである。
既に一部の国々では実施済みだが、あと2年でASEAN域内の関税とヒトの移動の規制が原則として撤廃される
これは大きなインパクトだ。
金とヒトの自由な行き来によって経済が活性化することは間違いないだろう。
またこの地域が一つの塊として動き出すという事の意味も大きい。
よく「東南アジアとひとくくりに言っても、国により文化も法律も違う」といわれる。
それはその通りだ。しかし今回、その地域が一つの経済共同体として動き出すのである。
日米欧中にとっても、それは重要な意味を持つだろう。

インターネットスタートアップにとっても大いに関係がある。
この地域である程度の規模を目指すスタートアップは、まずシンガポールに持ち株会社を作り、その下に各国ごとに事業会社を設けて事業展開する事が多い。
その際に各国で関税とヒトの移動規制が撤廃されれば経営の自由度が大きく増す。
また今後おそらく、現在はこの地域への進出を難しくしている要因の一つである外資による持ち株比率制限についても、域内に限って緩和ないしは廃止される可能性もあろう。

次に、この地域の日本との関係性の深さである。
2か月ほど前に誕生した安部首相が最初の外遊地に選んだのは中国でも同盟国アメリカでもなく、東南アジア諸国であった。
就任直後にインドネシア、タイ、ベトナムを矢継ぎ早に訪れ、各国首脳と笑顔で握手をして、「安部ドクトリン」といわれるASEAN外交に関する5原則を発表した。 現地メディアでは大きく報道されている。
安部ドクトリンとは、大雑把にいうと「日本経済の復活に、成長著しいASEAN各国の力を借りて共に反映すべく、つながりを強化する」という内容だ。
もちろん軍事的な側面もある。フィリピンにしろベトナムにせよ、日本と同様に中国との領土問題を抱えている。 しかし保守のイメージが強い安部首相ではあるが、今回の政権では明確に経済第一主義を打ち出している。
日本によるODAを基軸とした経済外交によって、東南アジアの通信インフラの整備などインターネット産業の発展に資する面は少なくないであろう。

2 インターネットユーザ数の爆発的拡大

これは言うまでもない。
東南アジアは6億人の人口を有する。5億人のEUより大きく、米国の2倍である。
しかも若い。東南アジアのほとんどの国の人口ピラミッドはきれいな三角形で、若年人口が人口構成のトップを占める。

中国は大きいが既に少子高齢化が進んでおり、人口構成のトップは40代である。それもあって経済成長も失速しつつある。

それに比べこの地域は、人口もGDPも、まだまだ伸びしろが大きい。

下図を見て欲しい。

3

現在のインターネット普及率は、大雑把にいって東南アジア全体で30%である。
日米欧の先進国が80%弱である。
つまり、普及率が仮に60%になっただけで、この地域のインターネット人口は日米をはるかに追い抜く。 既にマレーシアでは60%を超えており、その他の地域でそうなるのも時間の問題だろう。
さらに、仮に将来先進国並みの80%となれば、現在の中国に並ぶほどの巨大なインターネット人口が生まれるのである。

これが、東南アジアにインターネットブームが来るであろう、第2の理由である。

3 IPO(株式上場)ブーム

これは、既述の2点と比べて予測が難しい。
IPOブームがいつ来るか、来ないかは、産業やミクロの各企業の成長発展だけでなく、市場のモメンタムなど様々なマクロ要因にも影響される。
しかし少なくとも、この地域から独立系インターネットスタートアップの上場が遅かれ早かれ生まれることは間違いないと筆者は考えている。

下図を見て欲しい。

2

まず、記憶に新しいのが、2010年の暮れから2011年にかけて起こった、中国インターネット企業による米国IPOブームである。
「中国版Facebook」と言われたRenren、「中国版Youtube」のYouku 、「中国版Akamai」のチャイナキャッシュ などなどがこの時期に集中して上場した。そのほとんどは米国NASDAQに上場している。

さて、それから5、6年さかのぼると、2004年、05年にそれぞれ、Tencentと Baiduが上場している。
両社は今では中国インターネット産業の中核的存在であり、なかでもTencentは50兆円もの時価総額を誇る中国インターネット産業の圧倒的覇者だ。

次に、ロシア。
「ロシア版Tencent」と称されたMail.ru、「ロシアのGoogle」のYandexが、それぞれ中国ネットIPOブームと同じ時期にロンドンとNASDAQに上場を果たしている。いずれも二桁ビリオン(数兆円)の時価総額でのデビューだ。

つまり、中国もロシアも、最初に上場するインターネット銘柄は、ポータルとサーチであった
(TencentもMaul.ruもポータルといっても、その後はメッセンジャーもゲームもセキュリティもVCもやるといった複合企業化しているが。)

ポータルもサーチも、インターネット産業にとってはインフラのようなものだ。

まずはそれらが花開いた後に、その上で活躍するサービスやアプリやコンテンツが成長するのである。
日米でも、上場した順番は、最初にISP(AOL)であり、ブラウザ(ネットスケープ)であり、ポータル(Yahoo)であった。

さてこのような歴史に照らしあわせると、東南アジアのネット系IPOはどのように予測されるのか?

やはり同じようにポータルやサーチのようなインターネット産業のプラットフォームのようなIPOはありえよう。
ただし、サーチは残念ながらこの地域独自のものはほぼ存在せずGoogleのほぼ独り勝ちである。

しかしながら、ポータルやソーシャルメディアを核とするネット複合企業は、東南アジアの各国にそれぞれいくつか存在しており、その中でも十分な収益化がなされている企業もある。
現に、例えばベトナム最大手のインターネット複合企業であるVNGは海外マーケット(NASDAQを想定していると思われる)への上場意向を表明している。
このような企業は東南アジア各国に存在しているし、域内の複数の国でシェアを有する会社もある。

中国の次にロシアが来たように、時期や銘柄はともかくとしても、東南アジアで上記のようなインターネット企業が上場すると考えることは、不自然ではないだろう。

以上の通り、

第一に、マクロの経済発展によって人々の可処分所得が上がり、Eコマースやスマートフォンに費やす人々のお金も増えるだろうし、通信インフラも高度化されるであろう。
第二に、豊富で若い人口構成のこの地域では、経済進展にともなって、インターネット人口が先進国を追い越して爆発的に増えるであろう。
そして第三に、近い将来IPO企業が出てくることにより、先進諸国でそうであったように、それを実現した人々のお金やその会社の人材が別の新しいスタートアップに回っていくというスタートアップの「エコシステム」が形成されていくであろう。

もちろん、日米とまったく同じような歴史をたどる事はないだろう。
現に中国はそうではなかった。内陸部と沿岸部の経済格差が大きい点は、ダイバーシティ(多様性)が大きい東南アジアにも類似点はある。
しかしながら全体としては、近い将来、東南アジアのインターネット産業およびスタートアップエコシステムが本格的に発展成長してくと考えられる。