ハイプ・サイクル理論

このところたまさか、同じ話題とおぼしきものを複数、目にする機会があった。

批判と楽観と誤解 -サイバーエージェント藤田晋社長のブログ-

「われわれはいつも、この先2年間に起きるだろう変化を過大評価しすぎる。そして、この先10年間に起きる変化を過小評価しすぎる。」 -ビルゲイツ-

上記はいずれも、ハイプサイクル理論と同じような状況分析に基づいているのだと思われる。

それは、「新しい技術が世に注目を浴びてから、社会に浸透するまでには、バブル的な過度な期待と、その後の失望を経てから、消えてなくなるものもあれば着実な評価を得て社会に広く適用されていくものだ」、というコンセプトであり、ガートナーという世界最大のIT系シンクタンクが生みだし、広く知られている。

確かに、一見して納得感がある。
例えば、ガートナーが2009年7月、つまり3年前に発表したこの図表を今振り返ると面白い。

「Peak of inflated expectations」、つまり過度の期待が生じている「流行期」のカーブの頂点に当時位置していたものは

・電子書籍リーダー
・クラウドコンピューティング

である。
そしてそれらは青い丸「2-5年で社会の主流になる」とされている。つまりちょうど今現在だ。

どうだろう?
ズバリ、言い当てている感があるのではないか?

電子書籍リーダーについては、まさに先週「日本上陸」の報道があったアマゾンのKindle、実はアマゾン全体の売上では既に、昨年2011年5月の時点で、電子書籍ダウンロード販売が本の販売を上回っている
日本では楽天がKoboを華々しく立ち上げ、そしてその後に6万点強のラインナップの大半が水増しではないかと批判を浴びているが、Kindleは既に100万冊以上と、桁が違う。つまり「安定的に社会に定着」している。
アップルのIpadは、もちろん電子書籍リーダー用途のみならずタブレット端末として多用途であるとはいえ、日本でももはや既に社会に定着した感がある。

次にクラウドコンピューティングだが、こちらでもアマゾン社の活躍は目覚ましい。既にインターネット事業者にはAmazon Web Serviceは定着している感はあるが、政府系機関や、教育機関にも数千の導入実績を持つという。

このように、ハイプサイクル理論は、実際に「未来予想」を的中させてきた面がある。

しかしその一方で批判も多い。

「技術を分析する理論であるのに、技術自体の分析によらない」とか、そもそも「科学的な根拠がない」などといった批判だ。

またこの理論の提唱者であるガートナー自身が、実は過去に何度も大きな「未来予想」の失敗を犯した経歴がある。

「ブログは2007年にピークを迎える」
「マイクロソフトVistaは、同社のOSの最後のメジャーリリースになる」

いずれもそうはならなかった事は周知の通りだ。

ハイプサイクル理論に限らず、この手のMBAの教科書的な「コンセプト」というものは、世の中で実際に起こっていることがこれで全て説明できるわけでは無く、例外もあれば批判もある。

しかしそもそも、ハイプサイクル理論も含め、経営学上の理論は、未来を占うためにあるのでも、世の全てを解き明かすわでもなく、過去や現状を体系的に分析する事に主眼がある。
ゆえに知っておくと思考が整理されたり、磨かれたりするわけで、ビジネスパーソンや経営者にとっては便利な「思考ツール」である事には変わりはなく、やはり知らないよりは知っておくに越したことは無い、という代物なのだろう。