2021年度インドスタートアップ 投資トレンド
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インドのスタートアップメディア”Inc42”とPwC Indiaは2021年のインドスタートアップの資金調達動向に関する年次レポートを発行した。
2021年スタートアップエコシステムは、スタートアップに注入された資金調達額の“入口”と、上場マーケットへのIPO・M&Aにおける件数・金額の“出口”で、圧倒的な成長を記録した1年となった。
■資金調達環と投資環境の“入口”について
(1)過去3年間の累計資金調達額を上回る過去最高額を達成
2020年に続き、世界中でグロース株・ハイパーグロース株は投資家から非常に魅力的な年でしたが、2021年はインドスタートアップエコシステムにとって大飛躍の1年でした。
(引用:Inc42)
21年にスタートアップに注ぎ込まれた資金は過去3年間の累計資金調達額を上回り、最終的に4.2ビリオン米ドル(4兆8000億円)超となり、前年比352%増。投資件数は1,583件と、前年比166%増加と圧倒的な数値を記録した。
そのうち、国内外投資家が後押しする形で100ミリオン米ドル(115億円)級のディールが108件あり、今年1年で42社のユニコーンが誕生し、累計85社となり、世界第3位のユニコーン社数として再び返り咲きました。
セクターについては、フィンテック(レンディング・インベストメント)・Eコマース(D2Cマーケットプレイス/B2BEコマース)・エンタープライズ(SaaS,HR Tech)・エドテック(K12,スキル開発, テスト前準備)と続く、人気ぶりであった。
(引用:PwC India Report)
特に、国内外の投資家から圧倒的な支持を背景に、事業開始後6か月で最速かつ黒字ユニコーン企業となったデジタルファーストブランドをロールアップ型で買収するビジネスモデルを展開するインド版Thrasio(セラシオ)の『Mensa Brands』は圧巻であった。
同社は米系ファルコン・エッジ・キャピタルが主導した資金調達ラウンドで負債とエクイティ合計で300ミリオンを調達し、収益性の高いtoC向けブランド(ファッション・日用品・美容・パーソナルケア)と独占的に連携・国内外で買収を行い、M&A件数において2021年度最大の件数を誇る12件を実施し、急成長した。
(引用:Inc42)
(2) インドスタートアップ価格はバブル化しているのか?
21年度もSequia Capital,Accel,Tigar Globalなどが米系有力VCファンドはインドスタートアップエコシステムでも主要投資家となった。他にも海外PE/VCファンドやインド国内PE/VCファンドも更に存在感を強め、短期間で企業価値が急成長した企業も数多く生まれた。
今年の調達総額以上に印象深かったのが、シードステージ・グロース・レイターステージと各ステージにおけるチケットサイズが倍になったことである。従前ではIPO前のレイターステージにおいて投資家選好度が非常に活況であった2020年度までとは異なり、シードからレイターまで全ステージにおいて投資件数は2020年の2倍となり、金額ベースにおいても、2~3年前の2x程度がチケットサイズとなり、どこもかしこもベンチャー価格は高騰した。
(引用:Inc42)
現地スタートアップメディアのInc42のレポートによると100万ドル以下の小規模の案件も1,000件超となり、シードステージの合計金額も1ビリオン米ドルを超えたと報道している。
スタートアップ価格高騰のトレンドについては、昨今のハイテク株の暴落の状況を鑑みても2022年度は調整局面に入るとの見方が強いが、既存の国内外PE/VCファンドだけでなくCVCを含むコーポレート投資家のドライパウダー(ファンドがまだ投資に回していない待機資金)が十分に残っていることや、これまでの大型資金調達でフィンテックやEコマースの2つの巨大セクターが資金調達額全体を牽引したが、今後はIPOを控えている物流・ヘルスケアなどのユニットエコノミクス・ファンダメンタルが良い領域に、投資家選考度が集中されると見込んでいるため、若干の調整は想定されるが、引き続きインドスタートアップエコシステムについては活況になると思われる。
■Exit“出口”環境について
2021年度はエグジット環境がより成熟した1年となった。
(1)IPO環境について
2020年度まではインドでは本格的なユニコーンクラスのスタートアップによる国内IPO環境は未成熟であったものの、21年度は巨大化するスタートアップエコシステム側の要請や、政府も利益基準を緩和した事等により、IPOラッシュの1年となった。
21年7月にはフードデリバリーZomato社がインド国内で上場し、9月にホリゾンタルSaaS企業Freshworksがナスダック上場を果たした。2022年も物流大手のDELHIVERYや日本でも話題となったホテル予約サービスOYO・中古車売買プラットフォームであるDroom・オンライン薬局最大手PharmEasyなど幅広いセクターで上場計画があるとして報道されている。
(引用:Inc42)
(2)M&Aについて
インドスタートアップのM&Aマーケットは世界でも上位クラスまで成長・成熟しているが、グローバル大手・国内財閥系・ユニコーン企業などの買い手の層が厚く、21年度も下記の通り、多数の高額M&A案件が成就した。
2021年は200件超のM&Aがスタートアップ同士・国内大企業の買い手から行われ、特に目を見張った案件として、国内の重厚長大な大企業タタ・グループがスーパーアプリ開発のため、スタートアップM&Aを長期的な同社の事業戦略として位置づけ、大型スタートアップ買収を実現させ、同国内でのM&A市場においてもプレゼンを示す記念すべき1年となった。
セクター別には件数において、Eコマース・エドテックセクターがけん引した、特にロールアップ型のEコマース買収は上記の43社で件数の全体のMENSAはじめ、20%超を占めた。また、今年も世界最大のエドテック企業であるByju’sの買収案件が非常に活況であった。
■今後の注目セクターについて
PwCレポートでは電気自動車(EV)と暗号通貨・ブロックチェーン技術への関心が高まっていると述べている。
21年にはEVセクターにおいて累計667ミリオン米ドル(約767億円)へのスタートアップ企業への投資があった。特に今後の有力企業として、21年に電動二輪車の製造を発表したOla Electric Mobilityや 電動2輪車製造スタートアップ企業Ather Energy,21年度にライドシェアリングから電動スクーター・BaaS事業にも事業拡大したBounce等が非常に注目されている。
暗号通貨・ブロックチェーン技術については21年度には累計600ミリオン米ドル(約690億円)の資金調達を実施。仮想通貨取引所であるDCX(CoinDCX)はシリーズCラウンドにて90ミリオン米ドル(約103億円)を調達し、初の仮想通貨取引としてユニコーン企業となり、他にもTiger Globalが率いるCoinswitvh Kuberなどが全体の60%の資金調達を占めた。
上記に加えてインド政府が官民パートナーシップの取り組みを強化しているアグリテック分野(ドローンや農業支援サービス)も今年は更に注目されると思われる。