2021年 年頭所感

新年あけましておめでとうございます。

皆様のお蔭をもちまして無事新年を迎える事ができました。

毎年このひとことから始める年頭所感ではありますが、本年ほどいつにも増してこれを強く実感する年はありません。様々な困難や不安が世界に渦巻くなか、家族諸共無事元旦の朝日を拝むことが出来たのはひとえに親族、友人、仕事仲間、お客様など皆様との繋がりあってこそと深い感謝と連帯の意を改めて覚えるところです。

さて早速本年の展望を論ずるあたり例年通り昨年、2020年の年頭所感の振り返りから始めたく、まずは昨年のこの時期に私が下記の通り記した3つの予測を検証していきます。

  • 第一に、自然災害は残念ながら激甚災害を含めて国内外で更に増えると予測します。これに対する取り組みが技術的、経営的、政治的になされ始めている事は既述の通りですがそれはまだ緒に就いたばかりで自然と人間の共存には未だ遠く及びません。しかしなればこそ人類の英知と富はそのために振り向けられねばなりません。

  • 第二に、国内・海外において象徴的な大企業の倒産や再編、合併・買収、経営陣の刷新等のインシデントが起きうる可能性を予測します。しかしこれは必ずしも悪い事ばかりではありません。長期的に見れば役割を終えた産業や企業の新陳代謝やそれによる雇用はじめ各種リソースの再配分は社会全体にとってポジティブです。

  • 第三に、とはいえ明確な不況の到来、より正確に言えば株式市場の大幅下落は2020年中はないと予測します。むろん調整は常にあり、また不安定な局面も多いでしょう。もっとも問題は個人間・都市間の格差が広がり、株式相場が実態景気を反映しづらい現代社会において従来の景気という概念や株価が人間の経済活動の善し悪しを表す指標にはもはや適さないという事でしょう。これについてのコンセンサス形成とあらたなる指標・指針の発明が人類には必要だろうと考えます。

以上の通りです。3点とも概ねその通りの年だったようにも見えますが、ひとつずつもう少し詳しく見ていきます。

1点目の「激甚災害を含めて国内外で更に増える」については、申し上げるまでも無く新型コロナです。世界で9千万人以上が罹患し、200万人近くが失命し、数千兆円単位の経済損失に見舞われ、10億人以上の子供が学校での貴重な時間を奪われました。

がしかし、そのような大災禍の中でも人類は光明も見出しました。後半に記した「これに対する取り組みが技術的、経営的、政治的になされ始めている事は既述の通りですがそれはまだ緒に就いたばかりで自然と人間の共存には未だ遠く及びません。しかしなればこそ人類の英知と富はそのために振り向けられねばなりません。」この部分です。

いわずもがな、ワクチン開発です。これまでの疫病史上においてワクチンは少なくとも数年、なかには10年ほどかかるものもありました。それが今回は実に1年足らずで人類はワクチンを、しかも複数のそれを手にしました。これはmRNA解析技術やそのベースとなるAI・コンピューティング能力の指数関数的飛躍をはじめとする途轍もないテクノロジー・サイエンスの進展の賜物であり、また製薬各社の協定やソーシャルインパクトファンドの活躍や各国の資金提供等も含めて、まさに既述した通り「人類の英知と富を振り向けた」結果の勝利と言えましょう。

 

2点目の、「国内・海外において象徴的な大企業の倒産や再編、合併・買収、経営陣の刷新等のインシデントが起きうる」について。

これも概ね予測通りではありました。がしかし他方でコロナによって予測せざる状況も生まれました。

昨年アメリカでは負債総額1兆円を超えるシェールガスのチェサピーク・エナジーを筆頭に、大手百貨店JCペニー、レンタカー世界大手ハーツ、200年の老舗ブランドのブルックス・ブラザーズ、最も古い歴史を持つとされるデパートのロード・アンド・テイラー、最も歴史のあるレストランチェーンとされるシズラー、大手衣料品チェーンのJクルー等々、まさに昨年予測した通りの「象徴的な大企業の倒産」が相次ぎました。

ところが一方で、米国全体の倒産件数合計は減った、いや減ったどころか34年ぶりの劇的な減少となったのです。

これは日本も同様で、件数ベースでは上半期の倒産は▼1.4%減っています。下半期についても7月の+8.2%を除き11月までの単月全てにおいて前年比で倒産件数は減っています。

なぜか。

コロナ経済対策です。各国でロックダウンまたは類似の人流堰き止めを強制した、その代わりに国家が札束を印刷して国民や事業主に配布したからです。もちろんそれはモルヒネ効果、痛みの先送りです。「コロナを耐え抜き休廃業が少なかった」とはぬか喜びできず、むしろ本年以降に禍根を残したという評価となりましょう。

 

最後に予測の3点目、株式市場について。

「株式市場の大幅下落は2020年中はないと予測します」 これは当たりでもあり外れ、というべきアップダウンの激しい年となりました。2020年は歴史的な株高の年であったと同時に、アメリカ株は3月8日、歴史上はじめてサーキットブレーカー発動という事態も見ました。ショックの原因はコロナの影響もさることながらロシア vs サウジアラビア原油価格戦争による原油価格の急落も相いまったダブルトリガーでした。しかしそこからたった2週間そこそこの3月23日には早くも底を打ちみるみる反騰、その後はご存知の通り連日の史上最高値更新、終わってみると大晦日のダウは史上最高値3万0606ドル48セント、アメリカ代表銘柄500社で構成されるS&P500の昨年の値上り率は16.2%、テクノロジー中心のNASDAQコンポジションに至っては43.6%とリーマンショック反動の2009年以来の記録的な株高相場でした。日本株も概ね同様、日経平均株価は年で16.01%値上がり、31年ぶりの高値で大納会を迎えました。その他世界各国とも大同小異の値動きを見せた一年でした。

以上が、昨年の年頭所感での3つの予測の振り返り分析です。

それでは上記も踏まえて本題の、今年の展望です。

第一にコロナ、これは短期で急に良くなるという事はなく、年の半ばから後半にかけて徐々に良くなり、良くなったころにまた冬を迎え数字が悪化するが、その間にワクチンが市中に出回る事でロックダウン等の各種対応は幾分マイルドになる、という「三歩進んで二歩下がる」状況が現実的なシナリオではないでしょうか。ワクチンは各国で段階的に人々に行き渡りますが、入手可能になったとしても直ぐに接種しない人も少なからぬ割合いるでしょう。故にワクチンによって社会全体の景色が直ちにガラリと変わる、という事は期待薄と予測します。とはいえ確実に効果は年後半にかけて期待が出来るでしょう。

第二に経済、これは一にも二にも格差。格差の更なる激化は残念ながら不可避でしょう。それに対する不満や不安が渦巻く世の中が昨年はピークを迎えたように見えますが、残念ながらその山は頂上には未だ程遠いと考えます。社会的・政治的不安定も続くでしょう。これを根本治癒は難しいがさりとて無策で良いのかと言えばもちろんそうではなく、セーフティーネットの設置や解消されないまでも少しでもマイルドにする方策は尽くすべきでしょう。ひとつは教育でしょう。職能再教育等々含めて、長く険しい道かもしれませんが他に多くの解が無い以上、一人一人がこれに励むことが肝要と考えます。

第三にマーケット。これは今年は昨年よりも難しい予測です。第一に上述したモルヒネ効果切れによる先送りされた問題の顕在化懸念、第二にアメリカのブルーウェーブ化による財政金融政策の変更見通し、第三に同じく米政権交代に伴う国際地政学的リスク、そして第四に昨年までに上がりに上がったトレンド。

以上4つのリスクファクターに鑑みて下方リスクは大いにあります。がしかし一方で後述の上方への強い力学も依然存在する故、ここではあえて、本年はマーケットは中立ないしはやや強気、程度に予測しておきます。

今の株価はファンダメンタルズ乖離が大きい、IPOに至っては説明不能だ、ビットコインにファンダメンタルズは存在すらしない、東証マザーズの平均株価収益倍率は150倍だ、テスラのそれなど1200倍だ…. 全てYesです。しかしながらSo what、それがいまのマーケットでもあります。これをもう少しかみ砕くと、低成長、低金利、低インフレ、この3点セットと非伝統的金融政策とがスパイラル的相互作用を見せる事で生じる過剰流動性、その行き場としての資産インフレ、株高、そして更にはその副作用としての格差の激化。これがリーマンショック後十余年のメガトレンドでしょう。そしてそのトレンドが新型コロナという歴史的災禍により昨年一年で極端にレバレッジされた、コロナとは結局のところ世の中を変える効果よりもそれまでのメガトレンドを強化するそれのほうが人類にとって遥かに大きな影響をもたらした、メガトレンドゆえにそれは本年以降も止まらず非伝統的ではないもはや日常として世界人類に強固にビルトインされていくだろうと考えます。

 

引き続き厳しく、不安定で、不機嫌な社会ではありますが、それを所与としてリーダーはかじ取りをしていかねばならない。そういう厳しい覚悟をもって、新年を迎えようと思います。

 

2021年 新春

シンガポールにて

蛯原 健