アジア諸国の若者の実態

先日、「グローバルで通用する若者100万人プロジェクト」というイベントでお話をさせていただいた。そこでお話した内容を以下にまとめた。

「海外に出よう」、「グローバル市場で戦おう」…昨今ではカラスが鳴かない日があっても、それを聞かない日は無いというくらいであるが、実際に学生や若者がその問題にどのように取り組みうるのか、というテーマで話をさせてもらった。

私は、東南アジア諸国でベンチャーキャピタル投資をしている。私が普段会うのは現地の若いインターネット系スタートアップで、たいてい20代の若者ばかりだ。
大学で講義もしているので大学生ともたくさん会う。 以下では、私がそうして今まで会ってフェイス・トゥー・フェイスで話をしてきた東南アジアの若者の実態がどのようなものかを論じることで、上記のテーマに対する答えを探ってみた。

アジアの若者

まず第一に、これは意外と良く聞かれるのだが、私が「アジア諸国の人たちと何語で話しているのか?」
もちろん英語だ。

シンガポールやフィリピンでは英語は公用語だし、インドも最近では英語人口が4億人いると言われるが、ホテルのレストランなどで隣り合わせると、インド人しかいないテーブルでもだいたい英語で話をしている。
またインドネシアでは、財閥が強い事で有名であるが、財閥トップ層は子供をほぼ例外なく米国の大学に留学させる。 ハーバード、スタンフォード、バークレーなど一流大学も多い。
また財閥トップ層は、日本人の女性と結婚する事が多い。大統領に嫁いだデビ夫人が日本では有名である。 日本人のお母さんに育てられた財閥ジュニアは日本人と同じように日本語を話す、言われなければ話していて日本人と間違えるくらいである。
つまり、彼らはオギャアと生まれた瞬間に、母国語インドネシア語と日本語が話せ、米国留学でネイティブな英語も出来る、という事を運命づけられている。
それが、人口世界第4位のインドネシアのリーダー層の作られ方である。
もちろんダイバーシティは大きい。インドと並んでアジアで最もダイバーシティが大きい国の一つだろう。
しかしミドル層も結構、地理的に近いオーストラリアによく留学する。

若者の話とは少し外れるが、韓国のアジアにおける隆盛もまた知られたところだ。

私は年間100泊以上ホテル住まいだが、東南アジアのホテルのブレクファーストで見る顔は、感覚的にざっと1/3が韓国人、1/3がインド人、残り1/3がローカルや欧米人にまざって日本人がちらほら、といったところだ。 部屋に戻るとテレビはほぼ100%韓国製のLG、シャープなどまずお目にかかったことは無い。チャンネルをひねとGangnam style、Girls Generation…. K-popが欧米系のチャンネルでも登場する。日本勢はなんとかアニメで踏ん張っている。街に出るとAndroid携帯はほぼ100%サムスン…

といった具合で、韓国の隆盛は凄まじい。

教育

次に初等教育はどうか。

ベトナムを例に取ろう。

私はFounder Instituteという、シードアクセラレータ(創業期スタートアップの支援育成会社)のメンターをやっている。
先日、そのメンターセッションをホーチミンでやった時の話だ。
そこには12組ほどのスタートアップがいたが、教育関連の事業を行うスタートアップが4社いた。つまり1/3だ。
私は聞いた。何故そんなに教育なんだ?

「ベトナムの学校では勉強がとにかく大変なんだ」
「もちろん塾はある、全員行ってる。でも結局塾も学校の先生が副業でやってたりするし、真ん中の子に合わせるので勉強が捗らないのだ」

だから、オンラインでパーソナライズされた学習ソリューションが必要、というわけだ。
そのようにベトナムでは既に、米国のKhan AcademyCoursera などのようなEDtech系のソリューションが、切実なプロブレムに対する解としていくつも誕生している。

またベトナムでは社会人の夜間学校も珍しくない。

公文(くもん)の海外展開は有名であるが、公文の学習者数は、タイには10万人以上いる
インドネシアも同様で、ジャカルタなどではあちこちで「KUMON」の看板を見かける。 大卒初任給2万円そこそこの国で、10万人が子供を外資系の塾に通わせているのである。

大学

アジアでは、新興国を含めたほぼすべての国において、大学はグローバルスタンダードの方式で経営されている。

例えばこういう事だ。

弊社では東南アジアのいくつかの大学と提携して起業家予備軍の育成を行っているが、カウンターパートはDean(学部長)である。

彼らは日本における「教授が昇進して登り詰めるポスト」という学部長のイメージとは程遠く、明確に経営サイドの責任を担う。

ゆえに我々のような外部協力者と提携して、経営目標数値(例えば起業家輩出数など)を達成すべく努力する。

また学生もテストや論文に忙しく勤勉に勉強しており、完全に学歴重視、GPA重視の社会である。
大学院、博士号への進学意欲も高い。

要するに、日本の真逆といった印象である。

なお、こういう議論の際には決まって、「中国では大卒の就職難が日本よりひどいではないか」とか、「そうは言っても、統計上は日本の学力のほうが新興国のそれよりまだずっと高い」という意見がある。 それはその通りである。

しかしここでは、冒頭に述べた通り「グローバル人材」、「リーダー層」を目指す若者についての国際比較という観点で議論をしている点を再確認したい。

よく、教育の専門家はこういう。

「新興国の教育はボトムアップ、先進国ではプルアップ (リーダー層の強化) 」であるべき

しかし実態は逆に、日本人が新興国と思っているアジアの国々では既に、日本より強烈なプルアップ教育がなされており、日本では相変わらず発展途上スタイルの、大量生産・ルーティンワークに最適な人材の育成、つまりボトムアップ方式に勤しんでいる。

その結果、日本の大学院への進学率は先進国でほぼ最下位である。

大学の質という意味では、世界の大学ランキング(発表元がいくつかありそれぞれ違うが)では、アジアで上位を占めるのは、軒並み、香港とシンガポールだ。
中国と韓国がそれに続き、フィリピンやマレーシアにも日本の地方国立大や有名私立大よりも高いランキングの大学がたくさんある。
またインドの大学も昨今かなり人気が高まっている。

そのような高いレベルの大学で、アジアの若者は「坂の上の雲で」必死に勉強している。

なぜか?

アジアの若者の就職先

新興国では、経済を支えているのは、少なからず外資によるところが大きい。
ユニリーバであり、P&Gであり、コカコーラ、トヨタなのである。
そして新興国の優秀な学生があこがれる就職先は、そのようなグローバル企業である。
グローバル企業では学歴が重視され、マネジメント職であれば最低でも修士、ドクターもごろごろいる。
大卒ではグローバル企業や国際機関などの重職には付けない。

ゆえに皆必死で勉強し、大学院に進学する。
新興国ではグローバル企業が経済に占める割合が大きい分、日本のように閉じられた国よりその傾向は強い。

以上の通り、
平均はともかく、我が国のような先進成熟国ではグローバルに活躍できるリーダー層の育成が重要であるという観点で見ると、残念ながらその層においては既に韓国、シンガポール、中国に抜かれており、その他東南アジア諸国にも、このままでは追い抜かれるのは時間の問題、といったくらいの危機感を持つべきだろう。

では、どうするか?

既述の通り、日本の教育には、少なくともグローバルリーダー層のそれにおいては大きな問題がある。

しかし仮に今すぐその改善に着手したとて、韓国がそうであったように、最低10年はかかる。

もちろんそれはそれでやる必要があるが、当事者たる今の若者はそんな悠長な事は言ってられない。

そこで私が考える具体策、「日本の若者が今すぐ出来る」対応策は、こうだ。

アジアで仕事をしよう

21世紀はアジアの時代、と言われる。
中国やインドの10億超、アセアンの5億(EUの4億人より多いという事は案外知られていない)、という人口論を持ち出すまでも無く、世界におけるアジアのプレゼンスは高まるばかりだ。

そのアジアで働いてみる。
既述の通り、アジア諸国のレベルは日本で考えられているよりずっと高い。
その高いレベルで、かつローコストで、そしてこれから大きく世界に台頭するアジア諸国で、働き、学ぶ事で得られるものは極めて大きいだろう。

例えば学生であれば、半年一年、無理なら2-3カ月でも良い、働いてみる。
旅行ではなく、留学でもなく、働くことで社会が、アジアが理解できる。

もちろん米国の大学に留学するお金や能力がある人は行けば良い。
しかしそうでない人でも、コストの安いアジアなら、なんとかなる。

あるいは、「就活」をして、就職した先で海外勤務になれるかもしれない。
しかし日本企業の多くが抱える問題は周知のところだろう。その中ではたして希望する配属先に付けるかどうか?

そもそも日本企業独特の「専門性無きジョブローテーション」方式で、果たしてグローバルに通用するキャリア・スキルを会得できる可能性はどれだけあるだろうか?

そこで私のお勧めは、新興企業だ。

シンガポールやインドネシアなど東南アジアには、ベンチャーキャピタルの出資を得て海外進出するスタートアップから、上場しているIT系・ニューサービス系の企業まで、日系の新興企業の数はざっと100社は下らないだろう。 そしてこれからもどんどん増えるはずだ。

そうした比較的小規模で若い新興企業は、人づてや直接門を叩いてアピールできる場合は少なくない。

また、例えばインドネシアには、「コス」というものがある。
一人暮らし用のアパートメントのようなものだが、5-6万も出せば、ジャカルタでホテル並みの暮らしが出来るし、2-3万円でも、日本人が十分に安全に暮らせる。
食費も微々たるものだ。
その程度なら、半年1年分の住居費は日本で本気でアルバイトすれば1-2か月、1-2回分のボーナス分でたまるだろう。

そのお金を握りしめ、本気でぶつかっていけば、雇ってくれる新興企業の社長は少なからずいるはずだ。

というのも、海外に進出している人は日本の将来を切実に憂い、日本のために自分も何か貢献したい、と思っている場合が多いものであるし、採用側としても、そのような気概ある若者なら会社に貢献してもらえるかもしれないという期待もあろう。

そのように現地で社会人修業する事で「アジア スタンダード」を頭だけでなく体で得とくする。

英語についても、力不足を痛感すれば必要に迫られて本気で学ぶだろう。

よくアジアの英語について、「シンググリッシュ」とか、「インド訛りの英語は云々」などと、嘲笑気味に言われる事がある。

しかし、アメリカで英語を自在に話す人は2億人ちょっと、「クイーンズイングリッシュ」の英国の人口は6千万人だ。インドだけで4億人が英語を話すと言われ、アセアンの5億人、中国の13億人の少なからぬリーダー層の英語人口と比べたら、いったいどちらが「訛り」なのだろうか? そんなことは少なくともビジネスにおいては全く無関係であり、「通じる事」だけが重要なのだ。

これだけを取ってみても、日本にいるよりアジアで働くことのメリットは大きい。
また現地の優秀な若者と肩を並べて頑張るなかで人的ネットワークを作ることも出来る、やがて彼らの中から国を、世界を担う者も出てくる事だろう。

他にも日本人がグローバルに打って出る方法はあるだろう、上記はあくまで一例に過ぎない。

事実、前述のような大学の現状から、このところ日本から中国やシンガポールなどアジアの大学への留学者が増えているという。

何はともあれ、気付いたら行動する、一日でも早く行動する、若いときこそ、それが重要ではなかろうか。