Founder Instituteシンガポール Scribdファウンダーとのセッション

Rebright Partners Pte Ltd.

昨日、シンガポールで行われたFounder Instituteのメンタリングセッションに、米国のドキュメントシェアサービスScribdのファウンダーCEO、 Trip Adler とともに登壇した。

Trip曰く

  • 今や25百万ドキュメントをライブラリし、成功裏にマネタイゼ―ションするに至るScribedだが、それまでに7回もビジネスモデルを変えた。
  • ある時はTwitterとほぼ同じアイデアを、Twitterがブレイクする直前にトライした。そこからの教訓は「早くあきらめすぎるな」。(ここは半分冗談まじり)
  • 一方でScribdを始めた時はシリコンバレーの起業家仲間たちに「失敗するからやめとけ」とたくさん言われた。
  • しかし数十名のαユーザから良いフィードバックを得て自信を得たのち、テッククランチ デビューしたら、たったの24時間でトラフィック規模1500位のサイトに駆け上った。
  • ある成功者は「マシンガン方式」でアイデアを連打せよというが、他の成功者は「ライフル方式」でアイデアを練りに練り上げてスナイパーの如く一撃せよという。自分はそれなら「ピストル方式」で、一撃一撃は丁寧に撃つが一発ではなく何発も、つまり集中しつつも、ピボットを恐れず、悪いアイデアに拘泥する愚を犯さない。

つまり、彼自身も戸惑いを隠さず率直に語ってくれたのだが、 Ideation(事業アイデアの着想)ついては、王道があるわけでも、米国の起業家コミュニティに何か特別な秘密があるわけでも、ましてScribdのように成功したサービスを創出した起業家ですら特別な方程式を持っているわけではない、どの国の起業家も同じ悩みを抱えている、という事が窺い知れた。

ただし逆説的に言えば、ある程度有望と見込めるアイデアには、早い段階でユーザや資金が付くというのが、シリコンバレーとその他の地域との違いだろう。
これについてTrip曰く、

  • 現在の米国は極めて資金調達がしやすい環境にある。ScribdがY-Combinatorを卒業した2007年より、シリーズA(最初のVCからの大型資金調達)獲得の確率と金額が格段に上がっている。あなた方も調達したいなら米国でトライしてはどうか。

これについては後述の通り、私を含めた他のメンターともう少し突っ込んだディスカッションをした。
ところで、このところ米国の有名無名含めた起業家と触れる機会を得る中で、私自身はこのような仮説を持ちつつある。
米国の起業家、特にある程度User traction (利用者の支持、サイトトラフィック)を獲得しているTripのようなファウンダは、たしかに優秀である。しかし果たして全般に彼らのほうが日本の起業家より優れているか、といえば必ずしもそうは感じない。もちろん米国には少なからずスーパーな起業家はいるが、全体で言えば起業家の優秀さの違いという要因よりも、起業環境(外部環境)の違いのほうが決定的な要因なのではないか、という仮説だ。
スーパーアントレプレナーにしても、その起業環境によって輩出されてきた/こなかった側面もあるではなかろうか。
事実、日本にも数は少ないかもしれないが井深氏、稲盛氏、孫氏など時代時代にスーパーアントレプレナーはいる。起業環境が良ければその数はもっと増えるかもしれない。その点ではオリンピックのメダル数の議論と似ている面もあるかもしれない。
起業環境の違いとは改めて言うまでもなく、「英語圏」という世界最大の市場、それに紐付く最大のIPOマーケット、M&Aマーケット、未上場資金調達マーケット、そしてその下部構造ともいうべき人材・専門家プール、法制・税制、教育… あらゆるものが「イノベーション オリエンテッド」にデザインされ、かつそれらが有機的に結合している場所である事だ。
そのような場所で、優秀なファウンダーが優秀なチームを組成して、ハードワークするからこそ大勝ち出来る。

では、日本の優秀でやる気がある起業家は米国ベイエリアに赴けばよいということか?

それについて、我々メンター同士でこのようなディスカッションを展開した。

とあるシンガポールのスタートアップが先月、現地に赴くと、たったの数週間で8社のVCからタームシート(投資条件提案書)を提案されたという。
たしかにTripが言うように、「そういう時期」なのかもしれない。
しかし本当に払い込みまでたどり着くかどうか、またその後もサバイブしていけるかどうか。そのためには「たまたま自分は他の国で生まれ育ったが、今はこの場所でこの市場向けのサービスをやっている」という状態にどっぷり浸からなければならないだろう。
もちろんそう簡単ではない。しかしその先例はある。
有名なところではSkypeは、ゼンストロームが公用語が英語でないスウェーデンで着想し、欧州のVCを何社も回って軒並み断られた後、英語圏に移って米国のVCから資金調達に成功して今日に至っている。
日本人でも最近、スティーブジョブスと直接交渉してアップルにM&Aエグジットを果たした曽我 弘氏が注目されている。
もっと言えば、Googleのセルゲイブリンはロシア人、Yahooのジェリーヤンは台湾人であった。確かに学生時代に渡米したというアドバンテッジはあったのだろうが、それなら日本人ももっとたくさん海外で学べば良い。そのためにはセルゲイやジェリーがそうであったように、その親たちが海外で仕事をして家族もろとも移住する人が増えることが自然だろうし望ましいだろう。
この議論は、ネット系スタートアップの世界に限ったことではなく、むしろ大企業や政府にこそ、あてはまるのだろう。
英語がどうのこうのという議論はとっとと卒業し、かつて80年代の我々日本人がそうだったように、ジャパニーズイングリッシュで金や資源やビジネスチャンスを追いかけ世界を駆けずり回って切った張ったをすれば、まだまだ可能性は広がっているのではないだろうか。