2020年 年頭所感

新年あけましておめでとうございます。皆様のお蔭様をもちまして本年も無事迎える事が出来ました。

いよいよ新ディケイド(新しい十年)が始動いたしました。

例年通り年頭所感をしたためるにあたり、まずは昨年2019年の年頭所感にそって昨年を振り返ります。

昨年の年頭所感で私は「愛国心」をキーワードに取り上げましたが、何と言っても我が国では皇位継承が昨年の一大イベントであり、伴う改元により「令和」という新元号のスタートが人心一新する効果がありました。一方で隣国との摩擦など負のイベントもありましたが、我が国ではあまり過激化する事も無く、他方でスポーツの世界でラグビーや女子テニスで世界で活躍する日本人が相次いだ事などもあり、総じて健全な愛国心の発露を見る事が多い一年であったのではないでしょうか。この流れは本年夏の東京オリンピック開催をひとつの山場として、昨年から今年にかけて日本人の精神的な隆盛がピークに向かっていくと考えます。

翻って個人的には

言論の場、情報発信の量を増やして行く事で、必ずしもビジネスに直結しない活動にももう少し積極的に取り組み、その事で人との出逢いを増やし、繋がりを深めるような活動に勤む事

昨年はこれを所信として表明いたしました。結果昨年は、8月にダイヤモンド社より書籍テクノロジー思考を上梓したことを契機により様々な方々との対話がうまれました。

またNewsPicksで動画ストリーミングMOOCやゼミ等に挑戦するなど、幅広く情報発信と未知の方々との人的交流を実現できました。

 

以上、総じて昨年は年初描いた通りの年を過ごせたと思います。

さて、本年2020年はどのような年になる、すべきなのでしょうか。

まずビジネス面では、恒例のNewsPicks 2020大予測インタビューにまとめて頂きましたが、テクノロジー保護主義、サステイナビリティの本格台頭、この2点が大きなテーマと考えます。そちらはインタビューをご高覧頂ければ幸いです。

 

オートメーションが全産業を覆い尽くしつつある点の人間社会へのマグニチュードもまた激甚です。ホワイトカラーにおいてはRPA、製造業の現場ではロボティクスとFAによって人間からソフトウェアとマシンによって労働の担い手がまるでオセロゲームのように急激な置き換えが進んでいます。前ディケイドで成熟化した機械学習(AI)技術はそのスピードを加速し、本ディケイド内には少なくとも一部の限定用途において実用化の可能性がある量子コンピュータは更にその加速度カーブを鋭角化していく事でしょう。

それにより消費者としての人間の利潤は拡大している一方で、労働者としての人間にとっては余剰時間、余剰雇用も今後さらに指数関数的に増えていきます。つまり人類は暇を弄びます。飢えや寒さは人を狂暴にしますが、暇もまた同様に人の心を苛み悪行に走らせる例は古今東西枚挙に暇がありません。

そのようなテクノロジー進展を背景とした理由と、グローバリズムを背景としたアジア30億人の台頭による日本を含めた先進国の中間層の没落という理由などがあいまって、国内外で引き続き「不安定で、不機嫌な社会」、という傾向が新ディケイドにおいても常態化していくと考えます。

そのような時代においては個々人の精神的拠り所に焦点が注がれるゆえ、SDGsムーブメントやマインドフルネス・ブーム等に繋がっていると見えます。人間の精神的な豊かさと、地球環境のサステイナビリティ、という本質価値にようやくまともに向き合う時代、それが令和であり、2020年からの新ディケイドではないでしょうか。

以上の現状認識に立ったうえで本年起きるであろう出来事の予測をあえて乱暴に試みましょう。

  • 第一に、自然災害は残念ながら激甚災害を含めて国内外で更に増えると予測します。これに対する取り組みが技術的、経営的、政治的になされ始めている事は既述の通りですがそれはまだ緒に就いたばかりで自然と人間の共存には未だ遠く及びません。しかしなればこそ人類の英知と富はそのために振り向けられねばなりません。
  • 第二に、国内・海外において象徴的な大企業の倒産や再編、合併・買収、経営陣の刷新等のインシデントが起きうる可能性を予測します。日本人の中高年世代にとって未だ鮮烈な記憶に残る山一證券破綻級が起きても驚きません。あるいは世界に名の轟くユニコーン企業にそれが起きるかもしれません。しかしこれは必ずしも悪い事ばかりではありません。長期的に見れば役割を終えた産業や企業の新陳代謝やそれによる雇用はじめ各種リソースの再配分は社会全体にとってポジティブです。
  • 第三に、とはいえ明確な不況の到来、より正確に言えば株式市場の大幅下落は2020年中はないと予測します。むろん調整は常にあり、また不安定な局面も多いでしょう。もっとも問題は個人間・都市間の格差が広がり、株式相場が実態景気を反映しづらい現代社会において(これは大なり小なり世界共通ですが)従来の景気という概念や株価が人間の経済活動の善し悪しを表す指標にはもはや適さないという事でしょう。これについてのコンセンサス形成とあらたなる指標・指針の発明が人類には必要だろうと考えます。

さてこのような時代認識のもと、私個人として本年の所信を表明いたすならば、通年通りお仕事のお話はこの場では脇に置いておくとして、それ以外の点において以下の通り表明いたします。

それは日本の地方への貢献です。

新興国の地方が抱える問題と、高齢化が極まりつつある日本の地方が抱える問題との間には実に多くの共通点があります。互いのコンテクストは真逆であってもその解決法は似通っている事が多く、ゆえに新興国でのイノベーション投資を生業としている小職が日本の地方問題に貢献できる点は少なくないと昨今改めて認識しているところです。他方で、日本のスタートアップ起業家も社会問題解決型が増えてきてはいるものの、地方問題に正面から取り組むそれが極めて少ないのが実態です。それについては嘆いてばかりいても仕方ありません。自ら何らか取り組みを始めるべきと考えるに至った次第です。もっとも大げさな話ではなく、またシンガポールという遠方にいながら物理的な余裕も多くありませんので、まずは日本の地方に仕事あるいはプライベートで昨年よりもなるべく足繁く訪れる事、そしてそこで多く対話する事から始めたいと思います。

また昨年同様、情報発信および人との出逢いと交流の促進にも努めます。最後に言わずもがな、職業人としてはファンドマネージャーとしてステイクホルダーの価値最大化に引き続き専心努めて参る所存です。

 

本年も皆様に益々の御多幸のあらん事を、ここシンガポールより祈念申し上げます。

2020年1月6日 蛯原 健