Covid-19 以降に来るトレンドとは何か

Covid-19以降の世界におけるビジネスやテクノロジー上のトレンドとは?

これは昨今極めて頻繁に聞かれる質問である。私自身もこの間ずっと自問自答している。皆さんもそうではなかろうか。何度も自問自答した結果、私の答えは「Covid-19以降の世の中のトレンドとは、Covid以前からのメガトレンドの強化」である。

 

メガトレンドはデジタル・トランスフォーメーション(DX)

ではCovid以前(Before-Covid) からのメガトレンドとは何か。それはごく乱暴に言うならデジタルトランスフォーメーション(DX)というワードでおおかたの説明が可能だろうと考える。

四半世紀続いたインターネット革命が終わり(その革命は西側5大企業群と中国アリババ・テンセントの7列強による完勝で終わった)、インターネット内の戦いに替わって今はインターネットの外における全産業のDX革命・データエコノミー革命のパラダイムに入った事は拙著テクノロジー思考でも論じた。

DXには色んな定義があるがここでは言葉遊びをするつもりは無く、つまりは社会や産業や人間の活動全般について、テクノロジーやイノベーティブなアプローチを用いる事で再定義や置き換えを行い、これにより効率化や利便性を追求する活動全般、程度の意味とする。

 

DXの結果、起きる事は何か。
自動化、無人化、リモート化、省力化/省コスト化、トレーサビリティ、バーチャル化、キャッシュレス、データ利活用、等々である。
見ての通り、これらの言葉はほぼそのままCovidに世界が襲われて以降世間が「こうあるべき、こうなるだろう」と口角泡を飛ばし議論しているものばかりである。
ソーシャルディスタンシングの実施には無人化、リモート化、キャッシュレスは喫緊である。データの活用もCovid克服先進国の中国・韓国の例を見るまでもなく、程度や手法の違いはともあれ必須だろう。自動化、省力化/省コスト化もロックダウンによる極端な需要消失にあえぐ企業にとっては死活問題である。
また一方で、これらのキーワードはBefore-Covidから従前メディアを頻繁に飾ってきた言葉でもある。
つまりはそれまでやってきた事と何ら変わらない、同じ事をもっと大胆に推し進めましょう、という事に過ぎないと言えば過ぎない。期待されているような素敵な回答では全く無い、むしろ陳腐で凡庸な答えかもしれないが、論理的に考えてそれしか回答が思いつかない。

では上記の自動化からデータ利活用まで並べたキーワードを、実際に具現化するに用いられるテクノロジーは何か。
AI、ロボティクス、RPA、5G、4K、ブロックチェーン、クラウド、MR (VR/AR)、クリーン/グリーンテック、新素材 等々である。これもご覧の通り、結局テクノロジー軸においてもなんら新しい概念が出てくるわけでもない。今までのトレンドが踏襲されているに過ぎない。それを裏付けるべく、それらテクノロジーに世界で最も取り組んでいる企業群たるアマゾンもマイクロソフトもアリババもCovidパンデミック真っ最中にも株価は史上最高値を連日更新し、その他含めた7列強は軒並み好業績、高株価を収めている

ではこれら新テクノロジーを各産業やライフシーンに当てはめるとどうなるか。こういう事が実現する。
遠隔診断/遠隔医療、リモート教育、リモートワーク/リモート会議、スマート農業、スマート・サプライチェーン、スマートシティ(ソーシャルディスタンシング測定、行動変容促進技術含む)、スマート・マニュファクチャリング、無人倉庫、キャッシュレス/無人店舗、等々。これまたいずれもまさにCovid時代に必要性を叫ばれている分野ばかりである。と同時にBefore-Covidからスタートアップ・イノベーションシーンにおいて既に隆盛だった分野でもある。

なおバイオ・ファーマ(創薬)を含めた広義のヘルスケア分野が新たにCovidによって支配的影響力を産業界や株式マーケットに及ぼす、という意見もある。一定程度イエスだろう。しかしこれもまたBefore Covidからのトレンドに過ぎない、と言えばそれまででもある。2018年後半あたりから既にいわゆるセクターローテーション、つまり株式市場における人気セクターの入れ替えは起きており、フィンテックやモビリティなどのセクターからヘルスケアへのシフトが始まっていた。AppleやAmazonら米国ITメガ企業も軒並みおととしから去年にかけて大規模なヘルスケア分野の新規事業投資を行っている。そもそもバイオ・ファーマの成長ドライバーとはコンピューティングリソースの性能向上そのものであるし、各国とも規制産業たるヘルスケア全般のDXによるイノベーション余地は広大だからである。これについては私は既に昨年末に受けたインタビューにおいて論じている

 

損なわれたのは既存の枠組み、恩恵を受けたのはDX

DXとは新規の取り組みであり従って未だ発展途上にあるのだから、既存の社会は主としてDX以前の枠組みで動いている。よって今回Covidによるダメージを受けているのは主としてDX以前の既存の枠組みである。既存の産業、既存の業種業態、既存の社会インフラである。

例えばEコマースではなく小売店がCovidにより打撃を受け、オンデマンド・デリバリーではなく外食産業が苦しみ、リモート会議ではなくオフィスビルが閑散とし、電子署名でなくはんこ産業が空前の灯となっているのである。

この通り、DXはCovidによりむしろベネフィットを大きく受け、逆にBefore-DXタイプの旧態依然産業ほどCovidによる被害が大きい

この事をある男が端的にこう説明している。

「COVID-19によりこの2カ月で2年分のデジタルトランスフォーメーションが起きた」

マイクロソフトCEOサティアナデラが1Q決算説明会の冒頭に発した言葉である。人々が毎日オフィスに集まる、という行為がMicrosoft Teamsによって代替されるというデジタル・トランスフォーメーションが起きた結果、利用者が1.5ヵ月で7割増えたのだ。

同じ事が全世界の、全ての産業・ライフシーンにおいて起きている。老舗の大手フィットネス店舗チェーンが倒産する一方で、在宅フィットネス・スタートアップの収益が7割増え、世界中のリテール産業が壊滅的打撃を受ける一方でEコマースやネットスーパーの流通総額は爆増しており配送枠はいつも数日先まで一杯である。シンガポールの道路はフードデリバリーの自転車で溢れているし、インドのリモート診断アプリの会社は利用者が5倍に跳ね上がり、昨年ナスダック上場した電子署名大手Docusignの株価は3倍に跳ね上がっている。学校が休校を続ける一方でGoogleMeetを使ったリモート教育が世界中でスタンダードとなり同サービスの利用者数は毎日300万人増え続け1月から30倍となっている。急激大幅な減収にあえぐ大企業からコストカットのため無人化や業務自動化の発注を受けるRPAスタートアップは目が回る忙しさである。ロボティクス、FA、工場IoT等々も一様に同じである。

 

Covidはスタートアップにポジティブ、既存産業にアゲインスト

Covidはテクノロジーにポジティブ、ローテク・人力にアゲインスト

それがCovidが産業界に与えている影響の性質である。無論例外もあるがそれらは旅行観光不動産など一部の産業であり、総じて上記の傾向が強いことは明らかである。

 

損なわれたものは戻るのか、どのように戻るのか

ではCovidは主としてDXやスタートアップを加速させるとして、「損なわれた既存の枠組み」のほうが今後どのように回復するのか、しないのか。

結論から言えば、全てが回復するだろう。

しかし無論それは「あるべきDXのトレンドを踏襲または加速したうえで」、であって単純に原状復帰するものでは無いだろう。

例えばリモートワークの導入が社会全体で5%だったものが仮にCovidにより70%になったとして、わざわざ再び5%に戻してから次に行くべきだ、などと考える人はいないだろう。日本は元々EC化率が10%あるかないかと世界でも最も低い部類だったところ今回それがCovid影響で跳ね上がっているわけであるが、それを再び下げた方が良いという議論をする人もあまりいないだろう。その他の自動化、無人化、データ活用等も総じて同じ議論である。

ただし一方で「これを機に大胆に変わる」という巷間よく取りざたされる論調に私は必ずしも組しない。人間の偉大なる「忘却力」は侮りがたい。また過度なテクノロジー万能論は有害ですらあり得る局面も無くはない。リモートワークが進められるだけ進めればよいとは私も思う一方で、実際には三歩進んで二歩下がるような事が起きるのが人間の歴史だろうと思う。

例えば私の子供2人も毎日Google MeetやGoogle Classで授業を受けているが一日も早く学校が再開して欲しいと願っている。そのままで良いとは全く思わない。一方で適切な形で一部のカリキュラムやルーティンにそれを使い続ける事は全くもってやぶさかではない。

リモート在宅ワークもそうだろうしその他全ても概ねそうだろう。つまりはMSサティア・ナデラの言の通り、2年で起きるべきことが2ヵ月で起きた、その瞬間カーブは非連続な鋭角に一瞬押し上がった、しかしその後は株式市場の「半値戻し」ではないが、極端に上がった分が全てではないにせよ一旦戻り、しかしながらその利用経験ゆえにCovidが無かった場合の世界におけるそれよりもいくぶんシャープな増加カーブを描くと予測する。

無論そのカーブのY軸はDX浸透度、達成度であり、Xは時間軸となる。

これを逆の見方をするならば、今後Covid-22、27と続くのか否かはともかくも、世界が再び疫病に見舞われるような事態への備えとしては、このDXカーブをなるべく高く、早く上げておく事こそが最大の感染症対策となるのではなかろうか。

その意味でも改めて、当社は益々アジアのDXに取り組む会社・起業家への投資・支援に専心努めて参る所存である。

 

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