本日、日経新聞が、中国アリババがアリエクスプレス事業をインドネシアで本格的に開始する事について、以下のように報じた。

アリババ、インドネシアでネット通販事業

2015/2/11 18:42 日経新聞

一方で、米国 TechCrunchは、以下の通り報じている。

Alibaba’s AliExpress Sets Its Sights On Indonesia’s Promising E-Commerce Market

まず整理すると、このアリエクスプレスというサービスは、アリババグループの中にいくつかある事業のなかで、中国国内の販売者が海外にモノを販売するための越境Eコマース(国際間取引)のためのマーケットプレイスである。

中国国内のマーケットプレイスであるタオバオや、同じく中国内でセレクトショップ型のモールを展開するTmall事業とは異なる。

出典: Alibaba社IPO目論見書

出典: Alibaba社IPO目論見書

このアリエクスプレスというサイトは、超巨大なサイトである。

Webサイトのトラフィック計測サービスSimillarwebのショッピングカテゴリでは、世界でアマゾン、Ebayについて世界第3位である。

一方で、アリババグループにとっての、このアリエクスプレス事業とはどういう位置付けかを見てみよう。

当該事業は、アリババグループ全体に対して、売上ベースで1%強でしかない。

流通総額ベースでは、アリエクスプレスは取引の全てを同社関連会社のアリペイを経由してはおらず、外部の決済手段等も使っているためその部分は公表されていないゆえ不明であるが、公表されているアリペイ経由の流通総額だけでいえば、中国国内マーケットプレイスであるタオバオのやはり1%未満でしかない。しかしながらいずれにせよ、サイトのトラフィックは冒頭の通り巨大である事から鑑みて、流通総額はそれなりには大きいと考えられる。

(以上、上場時目論見書を参照)

以上より、アリババにとって、アリエクスプレスという事業は、少なくとも収益貢献という意味では1%程度と、極小の非主力事業といえるだろう。

その意味では、これをもってして「アリババがインドネシアのEC事業に本格参入した」とは言い難い。

一方で、サイトのトラフィック規模や流通総額は世界において巨大ではある。そのインパクトは大きいのではないか、という見方もあろう。

それについては以下の考察が有効だと思われる。

アリエクスプレスは、同サイトランキングにおいて、ブラジルやロシアで2位である。

第一に、この2か国はいずれもインターネットユーザ人口が多い国である。

Simillar webのランキングアルゴリズムは詳しく公表されていないので不明であるが、この点が関係していると見て自然だろう。

(中国国内のユーザはアリエクスプレスではなくタオバオで買うので、アリエクスプレスのサイトランキングはタオバオより低い)

第二に、上記2ヵ国はいずれも先進国化していない、いわゆる中進国であり、まだまだ中国から安いモノを買うニーズがある国である。

一方で、米国や日本、英国等の先進国においては、アリエクスプレスのサイトランクは低く、存在感が薄い。

日本ではアリエクスプレスの日本語版はだいぶ前から存在するが、業界人ですら、その存在を知らない人が多いだろう、というくらい全く普及していない。

第三に、本件、ひいては世界のEC市場を考えるうえで重要な論点は次の点であろう。

それはそもそも、越境ECは、通常国内で議論されるECとは全く異なる代物である、という点だ。

その目的も、ユーザエクスペリエンスも、全く異なる。

越境ECとは、要するに日本で昔からいうところの、個人輸入である。

Googleで「アリエクスプレス」と検索してみればわかる。個人輸入、中国輸入などの話題に関する個人ブログが検索結果にざっと並ぶ。

信頼性、納期、税金などの諸問題などに言及するまでもなく、通常のECとは、全く別の事業形態なのである。

その意味でも、アリババがインドネシアにおいて「EC事業で」本格参入した、というのは実態と異なると言わざるを得ないだろう。

要するに今回のニュースは、そのようなアリババグループの「中国からの越境個人輸入サイト事業」のインドネシア語版をローンチした、という話である。

もちろん、先のロシアやブラジルの例と同様に、未だに安い製品へのニーズがあるインドネシアでは、中国からの越境輸入のニーズは一定程度はあるだろう。

しかしながら既に、インドネシアには国内外からECプレイヤーが多数ひしめいる。 数年前から競合が切磋琢磨して、決済や物流のレベルも、ひいてはユーザエクスペリエンスも向上している。その証拠に各社の流通総額の伸びは目を見張るものがある。

ロシアやブラジルでアリエクスプレスが普及しはじめた時代とは、今のインドネシアは状況が大きく異なるのである。

しかしながら、それを理解したうえでなお、今や情報通信産業における世界最大手集団の一角であるアリババのこの動きには注視が必要だ。

従前、同社はインドネシアをはじめとする東南アジア市場については非常に重大な関心をもっており、昨年シンガポールの物流大手シングポストへの出資による資本業務提携などによって着々と進出準備を進めている事は周知の通りではある。

まずはアリエクスプレスで先陣を切ったうえで、本丸である国内Eコマースに参入するのかもしれない。

そもそも、タオバオとTmallというアリババの本丸事業は、売上の半分以上を米国外から稼ぐ競合のアマゾンとは対照的に、中国本土の外には出ていない。

国の成長率の鈍化が顕在化した中国において、なかでも足が速く、株主はじめ世間からの成長プレッシャがひときわ高いネット産業セクタに属するアリババ、テンシェント、バイドゥなどの中国ネット大手各社は、既に中国外への投資や進出をどんどん進めている。 すぐ隣にある成長市場である東南アジアを狙わないほうが不自然だろう。

では、例えばタオバオやTmall事業がインドネシアに参入したら、何が起こるだろうか?

それこそが、「アリババがインドネシアに本格参入」という表現を使うにふさわしい出来事である。

次回はそのことについて、書いてみたい。